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ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。
やがて御釈迦様はその池のふちにおたたずみになって、水の面をおおっている蓮の葉の間から、ふと下のようすを御覧になりました。
するとその地獄の底に、かんだたと云う男が一人、ほかの罪人と一しょにうごめいている姿が、御眼に止まりました。
このかんだたと云う男は、いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。
と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。
そこでかんだたは早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、その蜘蛛を殺さずに助けてやったからでございます。

しかしかんだたは良い事をしたと思っておりましたが、蜘蛛の方ではむしろかんだたのことを恨んでいたのでございます。
といいますのも、かんだたが踏み殺そうとしたときの恐怖を忘れることができなかったからでございます。
その後の、その蜘蛛の人生は大きく狂わされてしまったのでありました。
と申しますのは、そのときのトラウマによりその蜘蛛はすっかり内向的になってしまったからでございます。
結局、良いことも何も無くあっけなく死んでしまったのでした。
そして今では極楽でひっそりと暮らしているのであります。

さて、御釈迦様はそのことを思い出しになりました。
御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれをおろしなさいました。

さて、その蜘蛛はの銀色の糸はかんだたの目の前に垂れてまいりました。
蜘蛛はと言いますとかんだたが上ってきたら適当なところで糸を切ってやろうと考えておりました。
案の定かんだたはその糸を上ってまいりました。
蜘蛛は糸を切るころあいを見計らっておりました。
ところがふと気がつきますと、蜘蛛の糸の下の方には、数限もない罪人たちが、自分ののぼった後をつけて、まるで蟻の行列のように、やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。
自分が復讐したいのはかんだただけであった蜘蛛は糸を切るのをためらってしまったのであります。
すると御釈迦様は自ら蜘蛛の糸に手をかけるとあっさりとそれを切ってしまわれました。
蜘蛛は唖然として御釈迦様のほうに目をやりました。
御釈迦さまは笑っておられました。それはとても冷たい笑顔でございました。

しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。
その玉のような白い花は、御釈迦様の御足のまわりに、ゆらゆらうてなを動かして、そのまん中にある金色のずいからは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。
極楽ももう午に近くなったのでございましょう。
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現世はつらいです。
抗鬱剤と抗不安薬は手放せません。
頭の中を妄想が流れていきます。
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